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カウナス戦役 - 16

 新月の夜。
 自分の目の前で事件が起こり数日。華やいでいた侯爵の館は再び古びた陰鬱な建物に戻っていた。天までも凶事を嘆くように涙の雨と曇りを繰り返している。
 侯爵は一見動じずに、そして口数少なく政務に没頭していた。ルベルは自分の屋敷に戻り、情報を収集しているようだ。
 全てが灰色に見える。それがカウナスの人々が置かれている情勢だった。

 リューゼル・ケーニヒスベルガーはその部屋に入り、扉を閉めると、中が真っ暗な事に気がついて魔法の灯しを照らした。蛍のような青白い燐光が部屋を照らす。
 この部屋はゲーベンバウアー侯爵夫人の死去後、十年来使われていなかったが、今ではその天蓋着きの豪奢なベッドにネージュ姫が新たな主人として眠っている。
「……調子はどうかな?」
 そう語りかける。しかし昏睡の眠り姫は答えない。
 暗殺者からリューゼルを庇い、凶刃の犠牲となったネージュ。リューゼルの魔法による治療により止血され、外傷は消すことができたが、意識いまだ戻らない。

「花の大公Liselotteよ、我に助力を」
 リューゼルは白い花に自分の生命力を吹き込むと、ネージュの傍に置いた。花を触媒に、自らの生命力を分け与える魔術。既に白の姫のベッドには数十本の色とりどりの花が供えられていた。
「……ネージュ。君は誰なんだい?」
 リューゼルは少女の白い髪を一房摘まみながら問うた。白の姫は髪の毛一本、血の一滴に至るまで微弱な魔力を帯びていた。魔術的素養は自分など及びもつかないだろう。彼は数百年を生きた魔族を間近に見たことがあるが、彼女の雰囲気はそれに似ていた。
「……君が魔族だとしても」
 指を絡め、囁く。
「今度は、僕が君を護るからね」
 反応の無い白の姫の寝顔を見て、ふと悪戯心がリューゼルの脳裏をかすめた。姫の額に手をあて、顔を近づけると、そっと領主の愛妾の唇を奪う。

「……リューゼル様?」
 王子様のキスによって開かれる姫のルビーの瞳。
 心臓が止まるような思いを抑えつつ、何食わぬ顔で受け答えた。
「苦しくは無いですか?」
「はい」
「何かほしいものは有る?」
「いいえ」
「……よかった。本当にね」
 白の姫は何とはなしリューゼルと絡めていた指先を見やり、花に囲まれた自分を見やった。再度視線が合う。
「ありがとう、リューゼル様」
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