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カウナス戦役 - 11

 華やかな宴。
 着飾ったカウナスの領主達、騎士達、貴婦人達。
 豪華な料理や高価な酒が振舞われ、談笑が絶えない。

 ネージュはその宴の主役だった。ルベルから贈られた純白のドレスに、瞳と同じ色のルビーと薔薇を飾る。
 侯爵に連れられ、見知らぬ大人たちに会うたびにドレスの裾を摘まんで一礼する。
「なんとお美しい」
「さすがはゲーベンバウアー様」
「まるで妖精ですな」
 白の姫に美の崇拝者は事欠かなかった。
 愛妾という触れ込みだが、侯爵は三人の子供を戦争と事故と疫病で亡くしている為、妊娠でもすればその子は跡継ぎということになる。尤も、侯爵にその気はなかったが。
 挨拶が一段落すると、侯爵と貴族たちはネージュには分らない難しい話題に入った。向こうではルベルが大笑いをしながら羊肉を頬張りつつ西方交易の話をしている。リューゼルは自分とは逆に女性陣に囲まれて対応に苦慮しているようだ。

 その宴の席の中に、笑顔でない人間がいた。
 赤地に白い矛の紋章を胸に飾った騎士風の男。
 礼服の下に鎖帷子を着込み、壁際でワイングラスを傾ける。
「お疲れですか?」
 不意に声をかけられて彼はネージュを見やった。ルビーの瞳に当てられ、騎士は不器用に笑みを浮かべた。
「…こういった華やかな場所は不慣れなもので」
「それなら、私もです」
 とてもそうは見えませんがと苦笑しつつ、騎士は一礼した。
「帝国第四軍のルーミス・シーゲルフェルドです。ネージュ様」
 第四軍。たまに聞く単語だ。どこか遠くで戦争中で税金などで大変とは聞いていたが、詳しいことは聞いていなかった。
「どうして私のようなものにお声を?」
 ルーミスの素朴な疑問に「お注ぎしますね」と酒瓶を傾けつつ、彼女は言った。
「寂しそうでしたから」
「どういうことですかな?」
「なんとなく、そんな気がしたんです」
 曖昧に、ネージュは微笑んだ。

「――え?」
 突然、奇妙な感覚がネージュの神経に走った。この賑やかな宴の喧騒の中、足音が聞こえてくる。
「どうか致しましたか?」
 周囲を見渡し始めた白の姫にルーミスがいぶかしんだ。
 足音が近づいてくる。例えようも無く不吉な予感がした。
「い…え」
 軽い目眩がして、ネージュは目を閉じた。脳裏にイメージが浮かぶ。死を纏った男のイメージ。
「顔色がすぐれないようですが」
 宴の喧騒やルーミスの声がどこか遠くで聞こえるような気がした。
 足音は止まり、扉が軋みながら開く音が聞こえてくる。
 死はこの宴の間に入っている。そして誰も気づかない。
「姫!」
 肩をつかまれ、ネージュは我に返った。
「…大丈夫ですか?」
「ご、ごめんなさい」
 ドレスの裾を持ち上げて一礼すると、そそくさと身を翻す。
 ルーミスはあっけに取られていたが、気を取り直すと注がれ直したグラスに手を取った。
「確かに可愛い子だ」
 再び笑みが消える。生粋の武人としては暗殺の見届け人というのは意に沿わぬ任務だが、任務を選り好みできる立場でもなかった。
(だが代々帝国が傾いたときの原因は常に女だった)
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