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カウナス戦役 - 10

 この世界に迷い込んだ少女が、数日して解ったことが一つ。
 この侯爵領は見えざる緊張の帳で包まれている事。

 会議が終わると日は沈み、すっかり夜となっていた。夕食はサンドイッチで済ませてはいたが、侯爵とルベルにはまだ仕事が残っていた。
「…おや」
 執務室の前に白の姫が待ち構えていた。侯爵の姿を認めるとつかつかと歩み寄る。ルベルが笑いながら会釈した。
「クラウス様。まだお仕事終わらないの?」
「侯爵様は多忙な身でね」
 ルベルの持つ書類の束を示して侯爵は苦笑した。
「…今日はこの仕事で終わりだが」
 執務室への扉を開き、侯爵が囁いた。
「先に休んでいなさい」
 ネージュが頷くと、扉が閉じた。一人残された彼女だが、自室には戻らなかった。

 侯爵が叛乱の計画案を書き終えたのは深夜だった。普段どおり寝室の扉を閉じ、そのまま上着を脱いでベッドに向かうと、いつかのように袖を掴まれた。
「ネージュ、鍵はかかっていたはずなのだがね?」
 侯爵が振り向くと、月灯りしかない暗い部屋で赤い瞳が輝いていた。
「クラウス様。なんだか疲れているみたい」
「そう見えるかね?」
「…はい」
 侯爵がベッドに腰掛けるとネージュは袖を離し、侯爵に身体を預けた。見るものが見れば恋人同士に見えるだろうか。
「確かに今日は、少し疲れたかもしれないな。お前にそうまで言われるとは情けないことだ」
「…これから何が始まるの?」
 ネージュは言ってから後悔し、目を伏せた。自分は侯爵を困らせるために来たのではない。
「何も、心配することはないよ」
 侯爵はネージュの長い銀髪をいとおしげに撫でた。
「私の力を、クラウス様に分けてあげたい」
「その言葉だけで」
 十分だと言おうとしたが口には出さなかった。ネージュは幸せそうな寝顔で半ば眠りに堕ちていた。
「…おやすみ」
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