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カウナス戦役 - 7

 メーメルはカウナス侯爵領の北端に位置し、クラル海に面する小規模な港湾都市である。
 昼間は酒や穀物、家畜などの出荷や積み下ろしで賑わうこの港も、深夜には人影は無く、今は波の音だけが響いていた。
「誰にも見つかっていないだろうな?」
「ご安心を。官憲は買収済みです」
 その港を歩く二人の男。傲岸な声の肥満の男とそれにおもねる痩せた男。ルベル・ゲーリング男爵とその家臣だった。
 波止場に用意されていた小船に男爵が乗ると、家臣のほうは櫂を漕ぎ出した。男爵のほうは懐からパイプを取り出すと燐寸で火を点し煙を吸う。
「まあ、金で得た味方は金で裏切るがな…」
 誰にともなく呟く。笑う男爵とあだ名されたルベルは、今夜は珍しく笑っていなかった。


 暗夜、小船の行き着いた先には小さな島嶼に黒塗りの大型船が停留していた。四本の帆柱に不気味な黒い鳩の紋章が揺れる。
「来たわね、…船沈まないかしら」
 小船が近づくと舷から商人風のトーガを着た女が身を乗り出した。クラル海の密貿易と海賊を手がけ、黒鳩と称される豪商ロリエ。
「遅い!」
 ルベルはそう叫ぶと、降ろされた梯子を苦労してよじ登り、甲板に転がるように乗り込んだ。
「すみませんねぇ。ちょっと時化に遭ってね。まあ不可抗力ということで」
 ロリエは羽毛の扇を仰ぎつつ非難を流す。
「あんた本人が来るとも聞いてなかったしね」
「フン、まあいい。物を見せてもらおうか」
「はいな」
 水夫に指示を出すと、ロリエはルベルを船倉に導いた。

 刀剣、棍棒、連接棍、戦斧、歩兵槍、鉾槍、弓矢、拳銃、小銃。
 矢と火薬。鉛の弾丸。ところ狭しと並べられた武具の山。
「…辺境産にしては、それなりに使えそうではないか」
 ルベルは拳銃を手にとって品定めをした。帝国でも火器は使われるが、西方のカスティリアも良質な鉄と火薬が取れ、その技術は帝国に匹敵するという。もっとも、この時代の火器は命中性や速射性に問題が有った為に主要兵器には成り得なかったが。
「何しろここ五百年くらい、必ず何処かで戦争してるからねぇ。まぁツールのほうはちょっと都合つかなっかたんだけどね」
 大きな木箱に腰掛けながらロリエが言った。
 俗に辺境諸国と呼ばれる大陸西方には主要産業が略奪という部族や国も存在した。帝国や魔族領域のように政治的な統一とは縁遠い地域だった。
「五百年戦っても統一できんのか。呆れた君主たちだな」
「ま、そのおかげで、私達は飯が食えるんだけどね」

 一通りの検分と目録の確認を終え、ルベルは甲板に出た。夜の海に浮かぶ密輸船。気分次第では海賊船にもなるという。
「まあ物は悪くない。買おう」
「まいど」
「一ヶ月以内にもう五隻分な」
「あら。戦争でもするつもり?」
「余計なことは気にしなくてもいい」
「…あっそう」
 やれやれといったゼスチャーの後、ロリエは脳内の算盤を弾いた。互いに互いを金の亡者と軽蔑しあっている仲だが、支払いについては信頼があった。というより、それだけの関係かもしれない。
「いいわ。でも一ヶ月以内というのには色をつけて貰うわよ」
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