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カウナス戦役 - 1

 帝国暦1026年、カウナス侯国滅亡。歴史書にはそう一行だけが記されている。
 歴史を学ぶものはその一行の間に幾多の英雄達が駆けていったことを知っている。
 しかし歴史は覆ることは無い。これは冷酷なる史実である…




 帝国暦1025年。帝国属領カウナス。
 夏が終り、小麦とじゃが芋の収穫に人々が期待と不安に案じているころ―

「それは…。本気で仰られているのですかな?」
 領主の館にて。
 初老の侯爵クラウス・ゲーベンバウアーは中央から来たという目の前の使者に尋ねた。齢五十を迎えようとする侯爵とは対照的に、使者は若さと鋭気と実行力を兼ね備えた怜悧な女性だった。
「私としては、特に付け加えることはない」
 栄光のベイロス帝国、第四軍司令官マリア・ベルトリッチはにべも無く答えた。
「カウナスの人口をご存知で? 28万人のこの侯領で、4万人を徴兵すると?」
「ええ…これは皇帝陛下からの勅命です」
「勅命…ですか」
 今年の春に始まった、皇帝の叔父ギスカールの叛乱。後にアストラーデ戦争と呼ばれたこの戦争は、緒戦を叛乱軍の大勝によって始まった。腐敗した軍管区制度は各地で軍閥を形成し、その多くが日和見を決め込んでいる。帝国中央軍は劣勢に陥っていた。
 皇帝はこれを機に帝国機構の立て直し図り… このカウナスでは租税は5倍となった。
 当然ながら領民達の生活は困窮した。暴動が起きなかったのは侯爵の今までの施政と人柄によるものだろう。
 だが4万もの働き手を失えば、カウナスの人的資源は払底する。租税は5倍のままなのだからふざけた話だ。
「…もし拒絶すれば?」
「この世界からカウナスは消えるでしょうね」
 脅す風でもなく、わかりきった事実を言うようにベルトリッチは答える。
「期限は一ヵ月後です。それまでに動員を」
 伝えることだけを伝えると、ベルトリッチは優雅に一礼し部屋を退出した。

 残された老侯爵はしばらくの間書状を握り締めていたが、やがて侍従に言った。
「ルベルを呼んでくれ。…それと二人分の茶を」
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