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カウナス戦役 - 21

 深夜。
「いずれにしても」
 老侯爵はジャムを紅茶に入れ啜りつつ言った。
「ベルトリッチは召喚拒否を見越して準備をしているのだから」
「時間を稼がなければならない」
「ですが…!」
 なにか言いたそうなルベルを制して老侯爵は結論付けた。
「対案が無い以上。もう決まりだ」
 ゲーベンバウアー侯爵は机に突っ伏して熟睡しているリューゼルを部屋に連れて行くようルベルに指示すると、席を立った。


 今日は遅くなってしまった。
 政務の片付けもそこそこに、老侯爵は疲労感を背負って寝室の扉を開けた。確実に帝国の監視の目が増えている。政務を疎かにはできなかった。
「まだ起きていたのか?」
 侯爵はベッドに腰掛けると先住者である愛妾に声をかけた。勝手に寝室に入ったことはあえて問わないことにする。
「はい、クラウス様」
 眠そうな少女の声。そういえば、この子にも伝えなくてはな。羽毛布団を被り、目を閉じながら老侯爵は先ほどの会議の決定を伝えた。
「明日、わしはアヒカールへ行く」
「遠いの?」
「……ああ」
「私もついていきます」
 ごく当然のことを言うようにネージュはそう言った。
「遊びに行くのではないのだ」
「それは、解かっています」
 少女は老人の手を取った。しわがれた手に愛おしげにキスをする。
「……離しません」
 ぞっとするほど妖艶な、恋する乙女の台詞。説得するには骨が折れそうであり、そして彼は疲れていた。
「ネージュよ」
(女連れであれば、警戒も幾分薄れるかも知れんな)
 少女の髪を撫でながら、老人は前向きに考えることにした。
「お前が望むのであれば、ついてくるがいい」
「はい、クラウス様」
 ネージュの表情に花のような笑顔が広がる。
 優しげな笑顔を返しながら、侯爵はもうひとつ考えたことがあった。
(カウナスにいるよりも、ベルトリッチの下にいるほうがこの子の為になるかも知れん)
「……もう寝なさい」
 自分の手を握ったまま幸せそうに眠る白の姫を見やりつつ、彼も闇の世界に落ちていった。
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