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カウナス戦役 - 20

 ネージュはそれ程現状に満足しているわけではなかった。
 この世界での自分は姫君である。電気もガスも水道も無い世界だが、使用人に囲まれ不自由はしていなかった。義務教育は礼儀作法や舞踊や教養の稽古に取って代わったが、退屈だと感じることも無かった。
 だが彼女の庇護者たるゲーベンバウアー侯爵は彼女の傍にいる訳ではなかった。
 いつも書類に囲まれて、そうでなければ複数の臣下に囲まれて、目を瞑り皺を寄せながら指示を出している。遊んでくれとも言えず、使用人の役目を奪ってお茶を差し入れるだけで我慢しなければならなかった。
「今は大変な時期ですからなぁ」
 ルベルが笑いながらそう誤魔化した。拗ねて見せると帝国本国の内乱鎮圧の為に四万人徴兵するのだと掻い摘んで説明してくれた。
「それが終われば、クラウス様は休めるの?」
「……終わればそうでしょうなぁ」
 政治の話になるとルベルもリューゼルも曖昧な話しかしない。
 仲間外れにされている様な感じで彼女は不機嫌だった。


 月明りが部屋を照らす。
 ネージュが元居た世界の月よりも、数倍は大きく明るい月。
 不気味なほど大きく、禍々しく、美しい満月。
 月明りの下で、一人でステップを踏んでみる。数日前の宴の時はアクシデントで踊ることができなかった。
 金の髪飾りを着けてから、視力が良くなった気がする。
 振り付けを確認するために、彼女は部屋の姿見に目を遣った。
 ――失敗だった。
 鏡の中の美少女と目が合った瞬間、目を離すことが出来なくなってしまっていた。
 自分自身でさえ見とれてしまう、清楚さと魔性の美貌。真っ白な長い髪が、月光に照らされて発光したかの様に輝く。青白い肌。深い真紅の瞳。
 まるで悪魔のように。
「……可愛い。素敵よネージュ」
 いつか聞いたことのある台詞を口ずさむ。
 自分の口から出た言葉が、白の姫の精神を震わせた。自分の中に眠っていた何かが目覚めていくような感覚。
「……可愛い」
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